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2012.6.24 講演会報告

17:00~18:00 品川区滝王子児童センター 
         
伊藤義則 館長の講演会


2012.6.24
伊藤館長の講演会の様子 1
ルノアール新宿区役所横店
2012.6.24
伊藤館長の講演会の様子 2
ルノアール新宿区役所横店


1)地域と児童館について
 児童館に着任して以来、ずっと地域と絡むことをモットーに仕事を続けてきた。異動する度に、以下のような方法(ほんの一例)をとりつつ、地域とつながりを築いててきた。

・同じ弁当屋に1週間通い続け、毎日同じメニューを注文して、顔を覚えてもらう
・時間の許す限り、地域をプラプラとまわり、地域の情報をたたきこむ
・自らから出かけて地域をつながっていく
・最終的には町会、有力者とつながっていく

(以下は伊藤館長が実践してきた地域との連携行事の一例)

○わらしべ長者
・児童館でトイレットペーパーもたせる。それをもって、昔話の「わらしべ長者」のように物々交換をしていく企画。物の交換を通じて、子どもたちと地域のいろいろな人との出会いと子どもたちの変化、成長を目的に始めた行事だった。
しかし、途中から子どもたちにとって都合のいい物々交換に変わってしまったため、2年間でやめた。

○怪盗BB団対決
・地域の中に「怪盗BB団」が潜んでいるので、週間かけて地域の情報を集めて、BB団を探し出せという企画
・ただシールを集めていくだけのことだったが、そのイベントが近づくにつれて、地域がなんだかソワソワしていく雰囲気が面白かった。
・小学4年生以上でないとあえない
・最終対決時点で怪盗BB団との対決。怪盗団とジャンケンをくりかえして、勝ち続けたらハッピーエンドという企画。

○親子丼キャンプ
人と人との関係を深く築いていったほしいと考え実現した企画。塾などで忙しく、屋外宿泊のキャンプができなかった。そこで学校の校庭に親子で泊まるキャンプにした。地元の中で親子でできるキャンプで親子の絆が深まる企画だった。

○ふるさと大原に集う会
どんな企画をすれば、地域の方が乗ってきてくれるのか。大人の出番がある企画を考えた。
「子どもたちが地元の小学校で思い出作りになるような企画をすることで、この地域が子どもたちにとっての本当のふるさとになるのではないでしょうか」と地元の人たちを説得した。企画そのものはみんなでサンマを焼いて食べる行事だった。企画名を考え抜いて
「ふるさと大原に集う会」とした。企画のネーミングはとても大事。

○この町全部ビンゴ大会
ビンゴのマスに商店街にある「文具の平井」など、商店の名前をかきこんでいく。たくさんある風船の中にひとつの店名が書いてある。風船から商店名を取り出しながら、ビンゴを進めていく。この企画を通じて町の住民がお互いの顔を知り、安全安心で生活できる関係を築くことを目的とした行事。

○やしお鍋
八潮団地には69棟のアパートがある。このアパートの住民に声かけをして、児童館で行う闇鍋の材料を提供してくれる方のお宅のベランダには黄色い旗を掲げてもらうことにした。そして子どもたちは黄色い旗のでている家に食材をもらいにいく。その時に、子どもたちは住民の方ときちんと人と対話をしなくてはいけない。「~月~日に闇鍋大会をします。
~時になったら、食べに来てくださいね。」と伝える。このことを通じて子どもと地域がつながるきっかけをつくる行事とした。


2)ある高校生男子グループへのアプローチ
○卓球好きの高校生たち
 ティーンズ館の取り組みが始まったとき、高1の6人組の男子が、卓球だけをしによく来館していた。しかし、ほかの子どもたちとは関わることはない。職員とも関わらない。そんな彼らを変えたい、彼らの力を児童館に活かしたいと思い、伊藤館長はある日、彼らに声をかけてみた。

○めんどくさい
 「よく卓球をしに来てるね。ここは中高生の児童館だから自己実現はもちろんOKなんだけど、力を貸してほしいことがあるんだ。
 大きいお兄さんが小さい子相手に遊んであげる。彼らはきっと、ああ楽しかったと思うだろう。そして、自分たちもああいう兄ちゃん、姉ちゃんになりたいと憧れる。
 そして彼らが君たちくらいの年になったとき、小さい子たちが憧れるような優しいお兄さん、お姉さんになる。そんなあそびの循環をつくっていきたい。君たちにぜひ力を貸してほしいんだ。」
 しかし、彼らは一言「めんどくさい」といって、目も合わさなかった。
 翌朝、朝のミーティングで、6人に「あそびの循環」の話をしたのでアプローチしてほしいとスタッフに伝えた。
 その後、スタッフがいろいろとアプローチを続けたが、彼らは依然として、会話を拒み、目も合わせず拒否し続けた。

○最後の声かけ
 ある日のミーティングで、「11月に児童館のおまつりがある。おまつりで何かのコーナーを彼らにもってもらいたい。このアプローチがダメだったら、あきらめよう。」と提案した。
 そして、これが最後と覚悟して、彼らに提案してみると、「卓球だったらやってあげるよ」と意外にも承諾してくれた。今までの声かけが初めて通った瞬間だった。すごくうれしかった。「参加した子が喜んでくれる卓球コーナーにしてね」と彼らに伝えた。

○そして、おまつり当日
 彼らの意見を承諾したもの、おまつりの会場は公園。卓球台は児童館の3階。ようやく重い腰をあげてくれた彼らの気持ちに応えるためにも、スタッフ総出で3階から、重い卓球台をおろした。
 しかし、彼らの思いとは裏腹に当日は雨になってしまった。雨天は会場を縮小して児童館内でおまつりを行うことになった。
 彼らに「すごく残念なんだけど、今日は雨で公園で卓球ができなくなったんだ。ごめんね。だから、内容を変更してトランプのコーナーにしてね」と伝えた。
 それでも彼らは一生懸命、トランプのコーナーをがんばった。そんな姿を見て、地域の方たちが彼らに惜しみない拍手を送った。

○そして彼らは変わった
 彼らは初めて大人の人にほめてもらい、とてもうれしかったようだ。この瞬間、彼らに自己肯定感が芽生え、その後、彼らは大きく変わった。
 今までは仲間内でしか卓球をしなかった彼らが、小さい子相手に遊んでくれるようになった。その後、彼らはさまざまな場面で児童館活動に関わるようになり、バスケの大会など、さまざまな自主企画を実施するまでになった。

3)中高生と自己肯定感
 今回の事例が成功につながった大きな要因は、館の職員が一丸になって訴えたことだ。素っ気ない態度をとられても、めげることなく、職員が声かけをつづけてくれた。そんな気持ちが彼らに届いたのだと思う。
 子どもたちにとって、自己肯定感をもてることはとても大切なこと。自己肯定感を持てる持てないで生き方は大きく変わってくる。児童館での中高生へのアプローチでは、彼らにいかに自己肯定感がもてるきっかけがつくれるかが大切。

4)課題を抱えた中高生たち
 児童館には本当にいろいろな子どもたちが来館する。自身の抱えている課題にぶつかり解決できない子もたくさんいる。すぐに解決はしなくてもじっくりと彼らと向き合っていくことが大事。
 中学時代に問題を起こす子も少なくない。しかし、中学生は受験を経て大きく変わる。高校では世界が大きく広がる。それで、高校生になって落ちつくケースも多い。しかし、高校になっても悪さをしている子もいる。彼らの抱えている課題は大きい。その原因の多くは家庭(親、兄弟)に問題があるケースが大半。
 どんな子にもしっかりと向き合うことが大事。しかし、悪さでも許容できるものと、決して許されることのないものもある。

5)会場からの感想と意見交換 ~TEENS世代への対応
・中高生と向き合うという事は、きれいごとばかりではない。
・年令相応に発達していない子への支援が多い。彼らが甘える先は児童館職員。
・現在、就労の問題を抱えている子がいる。課題を抱えた子と常に真摯に向き合わなくてはならない。
・中高生たちにとって、自分たちよりも少しだけ年上のお兄さん、お姉さんが話を聞いてくれることは、とても大きなこと。青年層のボランティアが身近にいてくれることがとても重要。
・中高生対応にこれという正解はない。常に悩みながらも、現場の職員が問題と真っ正面から向き合い、ケースごとにを答えを見つけていくことが大切。
・問題が発生した時には、トラブルメーカーに対応する職員だけではなく、それ以外の利用者をフォローする職員が必要。それ以外の利用者を守っている職員がいないと、利用者は確実に減っていく。
・課題を持っている子と接する際に大切なのは、起こしたことをただ叱ることだけではなく、他の人では見つけることのできなかった、その子のすばらしいところを見つけ、認めてあげることが大切。
・中高生対応はとにかく時間がかかるもの。思ったようには、なかなか進まない。そんな時でも焦らず、過大な期待を抱いてはいけない。彼らは、
最低限の約束は時間がかかるが守ってくれる。しっかりと向き合い、いいことがあったら、認めてあげる、ほめてあげることが大切


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